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2006年01月14日

大切な手紙

夜中に起き出して大切な人に手紙を書いた。
ずっと頭の片隅に残っていたことが、ぷっつりと途切れた感じに、その行為は僕を生き返らせたように思う。

車を走らせて、一刻も早く相手に届くように、真夜中のポストを目指した。
行く途中の下り坂のそこかしこには、壁がモルタルで塗られた古ぼけた建物がたくさんあって、その玄関から魔女のように化粧を塗りたくった元娼婦の女どもが、厚着した姿で往来を瞠っている。
薄ぼけた街灯の下で、夜闇に隠されたそれら建物や女たちの汚れが、変にメルヘンな印象を放っていて面白かった。

坂を下りきったところにある郵便局は、始めてみる真夜中の寂しさをまとっていて、人々の中継点として機能する昼間とは違って、くたびれて寝息をたてて休んでいるように見えた。
ポストを前にして立ち止まり、投函すべきその便箋にもう一度目をやった。
後で後悔するような内容ではないだろうか。
ごくり考え自問する。
寒さもあり、面倒になって、投函した。

闇に残っている少しばかりの光が、投函口の金属の上でほのかに息づいている。
丁寧に手紙を奥へ差し伸べた時、途中で引っかかっている他人の手紙が指に触れた。
大量の手紙がつまっているのか、僕の手紙は奥のほうへなかなか気持ちよく入っていかない。
いらいらして手を引き抜くと、別の手紙も一緒に、ずるり引き抜かれた。
入り口のところでひっかかっていた他人の手紙である。

僕の知らない他人が、これも見知らぬ他人にあてて書いた手紙。
それをもって車の中に引き返し、ルームランプの光の元で封を切った。
興味を惹かれて僕はその文を目で追った。


DEAR 勝又徹(カ・トゥーンちゃん)様

拝啓 腹が減っては戦ができないのかな?という5年前のあの言葉。
私なりに、今更ながら頭に来ています。
ぶち殺したいです。

おい。勝又どん。わす、子供できたですたい。
わっすぇ。わっすぇ。って呼吸ばってんしながら、子供こさえたどころ、なぜだか、わすの腹のなかに、長野県ほどの大きさの赤ちゃんができました。
「長野県ほどの」の部分は一部脚色が入っていますが、どうしても勝又どんに聞かせたかった。
否。聞かせたかった。

昔からのあなたの口癖「宇宙的ものさし」で、考えてほしいんですけど、最近の小泉チルドレンについてどう思いますか。
「最近の」って書いたけど、小泉チルドレン自体が最近のものだし、そういった意味での自分の中の矛盾点に、今赤面しています。
えっとぉ、勝又さんだから言うんだけどぉ、琴欧州がせんべえだったらって考えるとぉ、発狂しそう。
オリンピックっぽくない?
(「オリンピックっぽくない?」って書きましたが、そうゆうとっさの一言的な勢い余ったかんじの意味の無い言葉って、ありますよね?ね?ね?特に意味がないのです)

ガチョーンガチョーンガチョーン、え、違いますよ、ガチョウの鳴きまねなら、ぐ・・・ぐぅぐぁぐあぁぐあぁ、でしょ?

笑えんな。はっはっはっはっは。埼玉県だったら、あなたは、はっはっはっは。

好きな人ができたけど、ある種自分のものになった瞬間にある種の魅力がなくなってしまうのがこわいから、ある種自分の思いは伝えない。

あの風俗店に通っている理由は、例の風俗嬢の人間性に惹かれたから、とか、そうゆう欺瞞は僕は絶対やだし、なんかそうゆうのってリアルに訴えてこないですよなあ
おれ、ある種そうゆう馴れ合い、好きじゃないから
ある種が口癖で悪りいか?

僕、警察の人と飲むの初めてですよ。ええ、これからも宜しくお願いします。ええ、全然イメージとちがって警察官さんのイメージかわりました。ええ、あ、大丈夫です、このまま運転して帰りますから。すぐそこですし。ついたら電話します。心配してくださってありがとうございます。え?(PM6:30)


人間ですから、日々、色々なことを考えているものです。
変わらず鉄太郎さんは、スフィンクスって食べれるの???と、まじびびりする純真さを兼ね備えていますか?
鉄太郎さんとの思い出は、それこそ一抹の、ぬ、です。
永遠に冬が続くのではないかと、ぬ、疑ってしまいたいくらいに、ぬ、厳しい冷え込みです。

つんつく追伸。

冒頭の「DEAR」ですが、「日本人の癖に」と怒らないでよね。
行間を読んで頂ければ幸いです。
鏡とお腹って、最近ツボです。


初めて読んだ他人の手紙の内容だった。
手紙に落としていた目をさっとあげて、ウィンドウ越しに郵便局をながめた。
その前にぽつんと赤いポスト箱。
たくさんの気持ちの仲介を、その赤い体が果たしているんだろう。
想いは、いろいろな形をとって、伝わって行く。

なんとなく拍子抜けした気持ちになったが、自分の書いた手紙のほうをまた顔の前にとりだして、折り目をきちんとつけてから、決心して、大切なあの人に思いを伝えようと、車から再び降りてポストの中に手紙を差し込んだ。
すとん、と音がして、僕の手紙は僕の手から離れていった。
どうやらこの他人の手紙が邪魔をして、僕の手紙は入っていかなかったようだ。

今も左手にある、全く知らない他人の手紙。
なんとなく薄気味悪いが、バッグの中に入れていつでも読めるようにしておこう。
送り主にも受取人にも悪いけど、これは僕があずかっておくことにする。

投稿者 hospital : 2006年01月14日 22:10