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2007年09月07日

ずけずけと

ずけずけと言ってくれる。

喫煙スペースで久方ぶりの喫煙を楽しんでいるところに、最初に「火を貸してくれますか」から始まって、「このライターもらってもいいですか」
「タバコもらってもいいですか」
「この後めしおごってもらってもいい?」
「ちょっとコンビニでチョコ買ってきて」
「今日家に泊めてよ」
と要求がエスカレートしていく。
最初は「いいですか口調」だったのも途中からため口となり終始彼のペースに飲まれていた。
よくよく見ると私より年下のようだ。すっきりと髪の毛は刈り込まれており、一見するととてもさわやかな好青年といったイデタチ。
高速道路を長時間運転し目に入ったSAで休憩をしていると、出し抜けに声を掛けられたのだった。
結局彼は京都に向かう途中ということだったので、ちょっと遠回りになるけれどいいだろうと、私は彼を京都に送っていくことになった。
助手席で難しそうな顔をしながら腕を組みじっと考え事にふけっているようだったが突然ふっとこちらがわを見ると「やっぱその腕時計もらうことにする」と晴れ晴れとした顔で運転している私の左腕から義父に結婚のときにもらった高級時計をもぎ取った。
「『禁煙』てあるようだけど、タバコすうね」と念を押してから彼は先ほど私からもらったライターでタバコに火をつけた。
「やっぱ車ん中風ないから火がつけやすいよね」と当たり前のことを言って、その自分が言ったせりふがひどく彼の中で気に入ったらしくずけずけとまた同じことを繰り返し述べてはおかしさに耐えないようにして笑った。
「あのインターで降りるのが確かに市内へのアクセスはいいんだけど、一個手前で降りて景色眺めながらゆっくりと行こうよ」と提案された。
言うとおりにそのインターで降り、料金所で清算をしている隣で彼は頭の後ろで手を組んで口笛を吹こうとしているのかひゅううーひゅゅうゆーと音にならない口笛を鳴らすのに腐心していた。
目が合うとなんともばつの悪そうにして「まさか、口笛を吹けるようにレクチャーしてなんていえないもんな」と、なんとも偉そうに言うので、そうだよなあと思った。
「あっ!」
途端に大きな声をあげるので何かと問うと、今日は人気ゲームソフトでずっと心待ちにしていた某の発売日なので、まあそう遠くない距離ということもありこのまま大阪市内に行こうということになった。
「こばらへったからうどんを食べよう。う~ん。京都でうどんってのもなあ。おまえはどうしたい?」
慣れてくると私のことを途中からお前と呼ぶようになっていた。
なんと答えていいものか黙っていると「お前、ちゃんと自分の意見もたなきゃだめだよ。指示待ちはだめ。提案ベースで行かないと」と諭された。
諭されたからというわけでもないのだが「カレーとかそんなんでいいかな」と答える。
「八橋ってたとえば煮込んだらうまそうじゃない?」とたぶん彼なりに頭の中で考えていた空想を表明された。
結局トンカツたべたいということになって、けれどせっかくトンカツを食べるのだから絶対失敗したくないということになり、かなり吟味をするためにまずは評判を聞いてきてくれと嫌がる私にどうしても頼む、というから結局駅前で恥ずかしいなあと思いながら「おいしいって評判のトンカツやさん教えてください」と聞き込みをするのだった。
「けど、評判って意外とあてにならないよ」ということで、目に付いたテキトーなトンカツ屋で彼は「スープスパください」といって店員を困らせていた。
食後コーヒーをすすりながら「ねえねえ、お前ジャージっていう?それともジャッシーっていう?いや、俺の小学校ではジャッシーって言ってたんだよ」などと軽口を叩いている。
「この後すこし散歩したいからさっきのコンビニのところへ30分後待ち合わせね」と会計は当然自分もちじゃないという態度で店を出て行った。

窓から京都近郊の山々が眺められる。
ちょうど季節は夏の終わりで木々は紅葉の支度をそろそろはじめるかといったところなのだろう。明らかに夏の盛りの色とは違って見える。
30分後っていったっけなと腕時計に目を落とすも、そういえばさっきとられたっけなと自嘲する。
所定のコンビニに5分早めに到着し駐車場に車を停めて待っていたがそれからさらに20分後に大幅に遅刻して戻ってきた。
車の外からコンビニを指差してこちらを見ている。
きっとなにか買ってくれというのだろう。
彼のことだ、本当にどうでもいいようなものを買おうとしているのだろう。パワーウィンドウを空けて「なに?」と尋ねると、「いや、このコンビニトイレ貸してくれるかな?」と意見を求めていたのだった。
トイレを借りに自動ドアを入っていく彼の背中を眺めながら、さて、大阪市内までの道順だけは確認しておこうと思うのだった。

投稿者 hospital : 2007年09月07日 04:59