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2011年03月18日

世界の終わりが終わったら2

世界はぜんぜん終わらなかった。いつまでたってもあった。
そして、僕たちも終わらなかった。いつまでたっても元気に暮らしていた。
むしろ、以前よりも増して元気に暮らしているのだった。

だって、そりゃそうだ。世界が終わると決まったあの日から、僕たちはずっとうまくやってきた。より快適に、より幸せに、世界の終わりを迎えることを目指して、僕らは本当にうまいやり方でここまできた。無駄なものを捨て、必要なものだけを揃えた。ない場所にはある場所から、ない人にはある人から。
そんなふうに、誰もが一緒に、素晴らしい世界の終わりを目指した。

争いがなくなった。意地悪もなくなったし、嫉妬や泥棒や無神経がなくなった。
もうこの世界には、戦争も、民族差別も、調停離婚も、混雑した電車の中でのスリも、その混雑した電車の降り口をふさいで頑なに立ち続ける人も、存在しなかった。
全ての人々に、ゆとりと余裕があったから、混雑した電車ももう存在しなかった。

僕たちは以前よりずっと仲良しになっていた。
それは全部、世界の終わりのせいだ。
この世界の全ての場所で、全ての人々におとずれる世界の終わり。
だってそれは、有史以来、僕らがはじめて平等に何かを与えられる瞬間なのだから。

でも、世界はぜんぜんおわらなかった。世界はまったくしぶとかった。

思えば、世界の終わりがはじまったころ、僕たちの話題は世界の終わりで持ちきりだった。
どんなふうに世界が終わるかな?とか。世界が終わるとき、何してる?とか。
それで、もちろん、僕らの好きなロックやスケベや恋の話もそこに交じってくるわけで。
世界の終わりに聞きたい曲は何かとか、世界の終わりの前にいかに童貞を捨てるかだとか、そんな他愛もない話しがあって、それから、ある友達はこんな宣言をした。

世界が終わる前に、好きな女の子に告白をする。
だって。

世界が終わる前の彼なら、きっとできやしなかったよ。なにせひどい奥手の照れ屋さんの硬派君だったからね。でもそいつはほんとにそれをやってのけた。彼は変わった。これも全部、世界の終わりのせいだ。
結局、彼はふられてしまったけどね。

それであれからずいぶん時がたったけど、世界はまだ終わっていない。
あんなにちやほやもてはやされた世界の終わりも、いまはもう僕らの話題になることも少なくなった。
本当にずいぶん時がたってしまったんだ。
件の、好きな女の子にふられたあいつも、いまはまた新しく好きな女の子ができるくらいに。そして今や、あいつってば、僕らが、また告白しろよ、なんてけしかけても、こう言って嫌がるんだ。やだね、世界の終わる前にふられるなんて、そんな最悪な世界の終わりはないよ、って。
よっぽど好きなんだろうね。ってのが、僕の見解。

そんなふうに過ごしている僕たちだけど、世界の終わりのことを完全に忘れているわけではないよ。いつだって頭の片隅には、世界の終わりが横たわっていて、心の底には、世界の終わりが沈んでいる。そして、どんなに時がたっても、世界はあいからず、以前よりもずっとうまくまわっている。ストレスだとか、絶望だとか、自殺だとかは、もう死語だよ。僕たちの終わるはずの世界は、いつまでたっても、美しい秩序と均衡を保っているのだ。
ただすこし、語るべきことがみつからなくて、退屈になってきてもいるんだけれど。

そこで最近、僕たちは新しいご機嫌な話題をみつけた。
それは、世界の終わりが終わったら、何をするかってこと。
これを語るときのみんなの表情は明るい。

世界の終わりが終わったら、旅にでたい、とか、美味しいものが食べたい、とか。
みんな、いまだってできることばかり言うんだけど、
なぜか全てが特別なことのように、甘美な響きをもって聞こえてしまう。
それは、きっと、世界の終わりのことなんか、本当は僕たちは大嫌いで、
世界の終わりなんかなくなってしまえばいいのに、って、心から願っているからなんだろうね。

だけども世界の終わりはそこにある。
だから僕たちは、世界の終わりが終わるのを待つことにする。

さて、それで、世界の終わりが終わったら、僕は何しようか。
実は、その答えは決まっている。
たぶん、まずは散髪をして、お気に入りの洋服を着て、ちょっとしたプレゼントなんかを買いにいく。そして、そこから先は内緒なのさ。

え、教えてくれって?だめだよそんなの。だって恥ずかしいじゃない。
え?なに?・・・いや、ち、ちがうよ。だって、ほら、あれは、だから、僕の友人のはなしであって、僕のことじゃない。いや、ほんと。やめてよ。ちがうってばさ。もう、ほんとだって。うんうん、わかった。じゃあ、世界の終わりが終わったら、僕が何をするかって、そのとき君に教えてあげるよ。きっと。約束さ。楽しみに待っててよ。
じゃあね。おやすみ。またね。

世界の終わりが終わったら、きっと君に会いに行くよ。

投稿者 hospital : 2011年03月18日 00:57